私の居候していた赤山禅院では、毎年秋の仲秋の名月の日に、「へちま加持」が行われる。これはぜんそく封じの加持祈祷であり、厳修は千日回峰行の大阿闍梨である。
毎年多くの参詣者でにぎわうが、なぜかこの仲秋の名月の日は、朝から雨であることが多い。赤山禅院ではこの「へちま加持」が一年を通して一番大きな祭事なので、準備にたいそう追われるのだが、雨だと参詣者の数はどうしても激減してしまう。
赤山禅院住職の御前様(叡南覚照大阿闍梨)は、雨男だった。しかし行者の法力とは、雨を降らすことである。その意味では、法力のたいへん強い方である。ご自身は、「天から試しを受けないようでは話にならない。雨が降るのは運勢に勢いがある証拠」とおっしゃっていたが、さもありなんという感じである。
お寺の経営というのもなかなかたいへんで、特に赤山禅院は信仰の寺、修行の寺であり、墓地でもあれば、安定収入になるのだろうが、墓地経営は行われていなかった。拝観料も無料である。それどころか、お参りに来られた人には、粗飯(食事)を振舞う。収入は、お賽銭、お札やお守り、加持祈祷料そして信者さんからの献金が中心だ。京都のお寺というと、拝観料を取って庭を見せたりしているというイメージがあるが、赤山禅院では決してそんなことはなかった。
とはいえ、カスミを食べて生きていけるはずもなく、何かしなければならない。赤山禅院は秋は紅葉の名所である。11月中「紅葉祭り」と題して、お賽銭その他の収入アップと、私が主宰していたボランティアサークルの活動資金捻出を行うことになった。赤山禅院の参道にテントを張り、休憩所をつくってそこで白玉団子を売る。またナマグサ物(肉、魚介類)はお寺の中では食べてはいけないので、ナマグサ物の代わりに銀杏を入れたお好み焼き、「もみじ焼き」なるものを考案し、お茶とセットで販売したりした。一ヶ月だけの催しだったが、露店の売り上げは200万円以上になったので、成功だったのではないかと思う。今も11月の赤山禅院は、ガラクタ市などで賑わっている。
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