比叡山・赤山禅院は信仰のお寺。お参りに来る人は、様々な人がいた。御前様(叡南覚照大阿闍梨)の人柄を慕い、お不動様のご利益を願って皆さんお参りに来る。
赤山禅院の近くに住む信者さんもいれば、暴力団の組長もいた。大企業の役員もいたし、政治家も多かった。
「政治の世界は一寸先は闇」だという。確かに、政治の世界というのはほんのちょっとしたきっかけで、局面がガラリと転換することがよくある。
決して運任せということではないが、一寸先が闇の政治の世界にあって、何か指針のようなものが欲しいと思う政治家は多いし、政治は選挙、選挙という勝負事に臨むにあたって、武運を祈る気持ちももちろんある。そんなこともあって、多くの政治家が赤山禅院の御前様のもとを訪れていた。
個人の名前は控えるが、ある衆議院議員は、赤山禅院の御前様の所に来た時は、直立不動だった。その他にも、今現在、大臣の地位にあるかたも常連だったし、与野党の幹部も訪れる。選挙戦で直接の支援を得たことに加えて、やはり政治活動の心の支えに御前様がなっていたのだと思う。
御前様は、人は皆、繁栄することができるという、固い信念をお持ちだった。「繁栄」という言葉が大好きで、常に、皆が繁栄するためには、人はどう生きるべきか、社会はどうあるべきかを、夜通し語っておられた。時には荒唐無稽とも思える内容の話もあったが、なんといっても、厳しい修行をやり通した千日回峰行者の言である。迫力が違う。既存の物事にとらわれることのない自由な発想方法には、私も大いに刺激を受けた。今の時代、政治家に足りないものは多いが、何者かを敬う心、何者かを畏れる心は必要と思う。私自身、信心深い方ではないけれども、自分さえよければいい、カネさえ儲かれば良いという嘆かわしい風潮が蔓延する中、信仰を持つべきとまでは言わないが、宗教心はあってしかるべきと思う。
卒業して、議員秘書となるべく東京へ向けて発つ時に、「いいか中塚。人生は運だ。運をつかめるよう、日頃から一生懸命努力せい」とはなむけの言葉をもらったのを、今も忘れない。
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